為替市場の売買比率や株式市場の信用貸借比率は、潜在的な売り買いの圧力の大きさを見るためによく用いられます。いずれの指標も買い建てが大きければ将来の売り、売り建てが大きければ将来の買い圧力が大きいと解釈されます。この状態は、ポジションが傾いていると表現されることもあります。
しかし
市場全体で見た場合には、ポジションは常に一定であり傾きというものは存在しません。ある価格においていつも売りと買いが1:1で成立することを考えればそれは自明のことかもしません。
為替市場においてくりっく365の取引量というものは、市場全体の取引からみてごくわずかです。この限られた市場における買建て残と売り建て残をもって売買比率としているわけですが、もしくりっく365においてある価格の売り買いの注文のどちらかに偏りがある場合、カバー先の金融機関のインターバンク市場を通じたオペレーションによって即座に偏りが是正される形で反対売買がなされるはずです。正確には、くりっく365を含めた市場全体の売り買いの注文が常に1:1になるように取引価格が設定されていると思われます。(専門家ではないので多少解釈、表現がおかしいかもしれません。)
株式市場における信用取引についてはどうでしょうか。信用取引というのは仕組み上現物取引と区別して取り扱われますが、市場全体で物理的な構造だけを考えれば、すべて現物取引と同じとみなすができます。その場合信用買いというのは、証券会社から一部お金を用立ててもらって株を購入する現物買いであるし、信用売りというのは証券会社から株を借りて売却する現物売りということになります。これらを整理すると、下図のように買い手は新規の現物買いのみ、売り手は過去の現物買いの決済売りのみとなり、それぞれ1:1で成立することになります。市場全体で見れば、株の保有者が右から左へ変わるだけでポジションは常に一定です。どこかに得たいの知れない売りや買いが市場に存在しているわけではないわけです。
長々と市場全体ではポジションの偏りがないことを説明した後で、それではポジションの偏りとはいったい何かという本題に入っていきたいと思います。
一般的に言われるポジションの偏りとは前述したように、為替市場の売買比率や株式市場の信用貸借倍率から読み取れる残ポジションの多少による傾きです。しかしそれらの取引残高はどちらも全体の規模から比較すると数パーセントの規模でしかありません。このわずかな規模しかもたない取引の残高が注目されるのは、それが
比較的短期で反対売買される性格のものであるからです。
しかしそもそもなぜ比較的短期で反対売買される性格のものが注目されるかと言えば、
その反対の性格を持つポジション、つまり短期で反対売買されることが全くないか、あるいはほとんどないポジションが長期的な方向性を決めるというごく物理的な事実があるからです。これらの売買は実需と呼ばれ、為替市場においては輸出業者のドル売り円買い、輸入業者の円売りドル買いが、株式市場においては年金や生保などの機関投資家の売り買いがこれに当たります。
「生き残りのディーリング」で有名な矢口新さんはこのことを
『ポジションの量と保有期間が方向を決める。』と表現しています。より多くのポジションをより長く持っている側が最後には勝つということを言っているのです。
このような視点で見ると、為替市場の売買比率や株式市場の信用貸借倍率というのはどちらが弱者側かを占う指標ということができるかもしれません。しかしながら、これらの指標の傾きをもって単純にどちらかが弱者側かを特定することはできません。何度も言うように、それらの規模が全体に対して小さすぎるからです。
もしそれらの指標においてポジションが傾いている弱者側に実需の側がつくなら、それは見せかけの弱者ということになります。ポジションが一方向に積み上がりながらもその側の有利な方向への相場が継続するのはそういった背景があるものと思われます。
このようなことから、
相場の方向性を決定付ける強者側の意図を無視してこれらの指標をただ鵜呑みにすれば、真の方向性を見失うことにもなってしまいます。真の弱者か偽りの弱者かは、強者側の動向をもって判断しなければならないのです。市場における真のポジションの偏りとはその動向にあるのだと思います。
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ポジションの量と保有期間が方向を決める(参考文献)